JJでございます。
ある昼勤の日に、出勤すると14:00上がりのE藤さんが
私がバックルームに入るなり、
「店長、49800円貸してください。」
と言ってきました。
JJ:「は?それは、給料の前借りですか?」
E藤:「違います。お給料はもらいます。
けど、どうしても必要なお金なんです。
私の人生を変えるお金です。」
JJ:「使用目的は何?」
E藤:「断捨離のDVDを買うんです。すごい内容のDVDなんです。」
断捨離。
当時、流行しだした片付け術のようなもので
”モノを少なくすると開運する”という広告やムック本を店頭でも
よく目にするようになっていました。
E藤さんは、クルーの中でも、特に片付けと掃除が苦手で
自称ごみ屋敷の住人でした。
店内にごみが落ちていてもクルーなのに、
ごみを拾わずそのごみを避けて横を通り、
お客様が拾ってくださるといった人でした。
本人曰く、
”世の中で一番嫌いな音は掃除機の音”
だそうで、家にも掃除機がなく、
粘着式のコロコロと転がす、ごみ取りを使っているとのことでした。
バックルームの床に、黒いソフトカプセルが落ちていることが多くなった時期があり、
クルーさんが、何度か
「これは、一体なんでしょうね。」
と掃除をしながら、私に持ってきたので数回、確認をしていました。
ある日、ストコン前で発注作業をしていると、
昼休憩にE藤さんが入ってきて、
私の後ろで食事をしていました。
カップ焼きそばの香ばしい匂いと嗅いだことのない強臭がしてきたので、
振り向くと、袋入りのカット野菜を袋ごとレンチンして、
皿に出さずに、袋を後ろの接着部分でカットし、
テーブルいっぱいに広げて、見たこともない色のドレッシングをかけて
食べていました。
私が、じーっと見ていると、
E藤:「店長、いいでしょ、これ。
今、ダイエット中なんです。
生野菜より、温野菜がいいってネットでみたんで、
あっためて食べてるんです。
めっちゃ、健康的でしょ。」
JJ:「レンチンしただけでいいの?
その強烈な臭いのドレッシング何よ?」
E藤:「これは、ニンニクとか唐辛子とか、
代謝を良くする成分がいっぱいの
ちょー体にいい1週間でスリムになるドレッシングです。
通販で買ったんですけど、
5本買ったら1本おまけだったんで、
今、絶賛大量摂取中です。
どんどん痩せたらどうしよう!」
JJ:「すごく臭いんだけど。」
E藤:「この匂いがいいんですよ。臭くないと効かないんですよ。」
なんだよ、それ。
物凄く怪しい。1週間でどんどん痩せるドレッシングがあったら、
世の中、痩せてる人だらけだよ。
JJ:「ここ、狭いからさ、他の人が休憩するときに臭うよ。
家で摂取してよ。」
E藤:「ダメです。3食摂取なんです。」
JJ:「ドレッシングなのに?」
といいいつつ、E藤さんは、もあもあと湯気が出ているカット野菜に
どろっとした過激な色のドレッシングを追加でかけて、
カット野菜を1袋たべてしまいました。
そして、食事が終わると、トートバッグに手を突っ込んで
ごそごそとやっています。
見ると、いつも、バックルームの床に落ちている黒いソフトカプセルを口に入れていました。
見つけた!これか!
JJ:「ちょっと、今食べた黒いの何?」
E藤:「ダイエットのサプリです。
バッグの中でケースの蓋が開いちゃって、
かばんの底にこぼれてて、拾って食べてます。
1回5粒なんで結構大変なんです。」
JJ:「えーっ汚いよ!ちょっと、かばん見せて!」
私がかばんをのぞき込むと、いろいろなものがぐちゃぐちゃに入っていて、
レシート、黒く汚れたフェイクファーのポーチ、薬の袋、飲みかけのペットボトル、
筆記具、筆箱、箱ティッシュ、タンポン、半分口が開いた粉末ポカリスエット、
キーチェーン部分が破れたアニメのキャラのマスコット、
使い切った携帯用ティッシュの空き袋、
ダイエットサプリソフトカプセルの入れ物であったであろうプラスチックの容器、
そして、鞄の底に黒いソフトカプセルが無数に散らばっていました。
JJ:「汚すぎるよ、このかばんの中。
うちはさ、コンビニで食べ物とか扱ってるんだから
もう少し綺麗に整理しようよ。
食中毒とかになるよ。
このかばん、綺麗にするまで持ってきちゃダメです。」
と注意をしました。
次の日、E藤さんはかばんを持たずに出勤してきました。
縦に折りたたんでいたであろうシワシワのレジ袋に、
財布だけを入れてきました。
JJ:「ちょっと、E藤さん、かばんは?」
E藤:「店長に言われて改めてかばんを家で見たら
ちょっと汚くて、中身だして、洗ったんですけど、
家にある他のかばんも全部汚くて、
使えるものがなくて、これにしました。
でも、さっき、店に来る前にドラッグストアに寄ったら、
品出ししてる店員がずっと跡ついてきて、
もしかして、万引きとか思われたと思って
何にも買わずに出てきました。」
JJ:「汚いレジ袋だけもって、うろうろしてたら、そりゃ怪しいよ。
私でも、ずっと見てるよ。」
JJ:「いつまで、レジ袋がかばんなの?」
E藤:「かばんが乾くまでです。」
といいつつ、かれこれ10日過ぎても、
ずっと、レジ袋出勤で、退勤後もレジ袋バッグで
雑誌コーナーで本を立ち読みしたり、店内をうろうろしているので
私が以前にショップでノベルティでもらったエコバッグを
E藤さんに渡して、
JJ:「もう、そろそろかばん乾かないかな?
そのレジ袋バッグ結構、破れてて限界近い気がするんだけど。
みんなが、気持ち悪がってるし、
これでよかったら、うちに来るときだけでいいから
使ってくれないかな?」
と言いました。
E藤:「えーっ、ちょっと、趣味が違うんですけどー。
新しいレジ袋、1枚もらっちゃダメですか?」
JJ:「ダメです。レジ袋もお金かかってます。」
「仕方ないなー」と言いながら、結局E藤さんは私があげたバッグで出勤するようになりました。
それから約1ケ月後、出勤してきたE藤さんは、
「店長、昨日、不動産屋に行ってワンルームの部屋借りてきました。
自宅の部屋でとうとう寝るスペースが無くなったので
部屋借りることにしました。」
と私に告げて、新しい住所が記載されたメモを渡してきました。
いやな予感しかしないいやーなメモを受け取ってしまいました。
おはなしは続きます。