JJはとても悔やんでいる。
忙しいときの選択や決断は、失敗することが多い。
これは、人生で何度もつまずいてきた私の実体験である。
なぜ、あの夜、この子を雇ってしまたのか。
毎日、忙しすぎるからだ。
いや、そんなことはもう、どうでもよいが
私の一つの選択で、店のクルーさん、お客さまにまで
迷惑をかけてしまう状況になってしまった。
なんとかしなければ。
ここ数日、ずっとそのことを考えている。
H本君が深夜勤にお試しで、面接翌日から来ることになりました。
コンビニ従業員経験者といっても、違うチェーン店にいたので、
しばらく、私とこぐまさんが一緒にシフトに入り、
深夜勤で教えることにしました。
コンビニの深夜勤の業務はおおよそ、どこのチェーン店も同じなので、
細かな用語の違い等と、レジ操作を教えることに専念しようと決めていました。
火曜日の夜、0時にH本君はやってきました。
10分くらい前には、店に来るようにお願いしていたのですが、
「ちわー、寝坊しました。」
と言って、自転車で来ると言っていたのに、
母親が運転する車で来ました。
母親はH本君を送ってきた後、運転席で心配そうに店内を見ていたので、
ご挨拶しようと、私が出てゆくと、車から降りることなく、
軽く頭を下げて帰っていかれました。
髪の毛の色は、暗いうみちゃんの色になっていました。
制服の貸与、ロッカーの使い方、勤退の仕方などを教えて、
ドライ商品の入荷の午前1時まで、リーチインでドリンクの補充を
お願いしました。
重い新聞を背負って配っていた経験もあって、力があり、
ドリンクを、次から次へと運んで補充していました。
その日は新商品の次の日だったこともあり、入荷は少な目でした。
H本君に、ドライ商品の補充も教える余裕がありました。
パンやお弁当やチルド飲料、日配のお弁当が搬入される午前3時前には
商品の補充や、店内の掃除も終わり、3人で休憩していました。
午前4時過ぎから、当店はお客様が多くなります。
近隣の工場や、事業所や建設業の会社の方は朝の始業が早いのです。
なので、午前3時から4時までが猛烈に忙しく、すべての商品を棚に並べ、
FF商品を作り、店内を掃除して、お客様をお迎えいたします。
午前4時前でした。
ひとりのお客さまが、入店されてレジカウンターへ来ました。
私は、チルド飲料の補充をしており、
こぐまさんは、裏でFFを調理していました。
H本君が、一番レジに近いところでお弁当とおにぎりを並べていました。
「だれかおらんのー?」
お客様が大きな声で叫びました。
いかん。早くいかなければと思い、レジに行こうとしたその時、
お弁当を並べていたH本君が
「ちっ、うざ。」
と独り言を言うのが聞こえました。
お客さまにも、聞こえたらしく、
「ああ?いま、舌打ちしたな、お前!」
とH本君に近寄ってゆこうとしました。
もう、ダッシュしました。
H本君とお客さまの間に入り、
「お待たせしました。申し訳ございません!」
とお客さまをレジに誘導しようと思ったのですが、
「店長、こいつなんや?新入りか?
今、わしに舌打ちしたで。
どうなっとるん?
おい、新入り、こっち向けや!」
と大変、ご立腹です。
「いや、舌打ちなんかしてませんよ。気のせいですよ。」
とごまかそうとしましたが、H本君は、お客様に振り返ることなく、
もくもくとお弁当とおにぎりを並べています。
「おい、こっち向けや!」
とますます、お怒りなので、
JJ:「コーヒーですよね。お客さま、こちらへどうぞ。」
と素早く、カウンターに入り、身を乗り出してお客さまを呼びました。
JJ:「おきゃくさまー。こ・ち・ら・へ・ど・う・ぞー。ど・う・ぞー!」
大声でお呼びしました。
お客さま:「なんや、店長、こいつ、腹立つわ。
こんなん、雇って大丈夫か?
愛想もないし、朝からムカつくわ。」
JJ:「すみません。慣れてないので。コーヒーはどうされますか?」
とにかく、H本君からお客さまを引き離すことに必死でした。
お客さまは100円玉をカウンターへ放り投げ、
お客さま:「コーヒーゆうたら、砂糖2、ミルク1と決まっとるやろうが!」
と叫ばれました。
JJ:「そうですよね、ただいまお淹れしますのでお待ちくださいませ。」
コーヒーSサイズをカウンターからでて、お客さまに丁寧に渡し、
ドアまでお見送りいたしました。
お客さま:「店長、働く人は選ばなあかんで。あれは、ないわ。」
とおっしゃてお帰りになりました。
まだ、H本君はもくもくとおにぎりを並べています。
空いたバッカンを片付けながら、後ろから
「舌打ちとか、お客さまに絶対だめです!」
とH本君に言いました。
H本:「だって、あの人が自分の仕事の邪魔するんですもん。」
えーっ。
JJ:「レジ打ちも、コーヒー淹れるのも仕事なんですけど。」
H本:「自分、まだ、コーヒーの淹れ方習ってませんし、
前のコンビニはセルフでした。
コーヒー淹れ方習っても、あの人に淹れるの嫌です。
100円のコーヒーで偉そうなんですよ、あのお客。」
そうでした。まだ、コーヒーの淹れ方教えてませんでした。
JJ:「でも、レジには行かなきゃ。」
H本:「無理です。
4時までに、これ全部並べなきゃなのに、
邪魔しないでほしいんですよね。
コーヒーは砂糖2ミルク1とか決まってないし、
笑っちゃいます。
自分、あの人嫌いです。」
えーっ。
お客さまの言ってたこと、ちゃんと聞こえてるじゃないか。
JJ:「お客さまに好き嫌いはないよ。
今日、初めて会ったお客さまなのに、嫌いとかおかしくない?」
H本:「嫌いです。」
JJ:「なんでなの?」
H本:「僕の仕事の邪魔するからです。
一日中、ことりと一緒にいたいのに、
自分、働いているんですよ。
働いて、ことりとの生活費稼がなきゃいけないのに、
それを邪魔する人は悪い人です。
嫌いです。」
えーっ。
“悪い人認定”早すぎないか?
JJ:「とりあえず、お客さまに舌打ちするのやめてくれるかな。」
H本:「はい、でも保証はできません。」
えーっ。
なにか、安易に大変なものを背負ってしまったような気がする。
数か月間続く、波乱の幕開けでした。
おはなしはつづきます。