JJでございます。
この時期ななると、思い出すお客様がいらっしゃいます。
コンビニを経営しているときのおはなしです。
そのお二人は美男美女の方々で、歳は30台前半でしょうか、
関係性が不明でした。
毎日、夕刻17:00~18:00にお二人でご来店されて、
トリスのハイボールを1缶ずつ買われておりました。
代金は個々にお支払いされますが、ポイントカードを女性の方が、1枚お持ちで
そのカードに2会計分をつけておりました。
裏面にはO原と苗字だけ書いてありましたが、
一度、そのお名前でお呼びしたときに、
「あたし、O原じゃないよ。これ、私のカードじゃない。誰のだろ?」
とおっしゃっていたので、少し、怖いなと思っていました。
ご来店される時には、いつもお二人とも、
すでにお顔が真っ赤に酔って上機嫌でいらっしゃいました。
男性は結婚指輪をしていました。
お二人とも、いつもデニムでカジュアルなファッションでした。
店の裏のごみ庫の前の暗闇の中で、地べたに座って夜中まで、
酒盛りをしていたことも何度もありました。
いつも、お酒だけを買って楽しそうに出てゆきます。
クルーさんの一人が、一度、近くの公園で飲んでいるお二人を
見かけたことがあるといっていたので、
いつも、近隣のどこかで、お酒を楽しんでいるようでした。
そして、だいたい21:00頃に再来店されて、ビールを1缶ずつ買っていかれます。
当店の夕夜間シフトのクルーの間では、お二人の会話から
「断酒会で出会ったカップルじゃない?」
などと推測されていました。
クリスマスが迫ったある12月の夕夜間シフト、20:30分頃でした。
店内も落ち着いてきたので、私は夕食をとり、トイレへ行きました。
「はあ、疲れた~」
なんと私は便座に座ったまま、うとうととしてしまいました。
店内で叫ぶ声が聞こえたような気がしましたが、
本当に、うとうとしてしまって、数分、眠っていたと思います。
「おしりさむっ。」
と、臀部の寒さで目が覚めて、
「いかん。戻らないと。」
と店内へ戻ったのですが、レジカウンターの周りに
人が集まっていて、列ができてしまいました。
慌てて、レジに戻り、もう一つのレジを開けて会計を始めました。
入り口にもお客様が集まって、店の外を見ています。
「大丈夫かな、あの人。」
「こわいんだけど、何?あの人。」
「どこ行ったのかな。」
と口々に言っています。
レジに並んでいたお客様をさばき終わったときに、
一緒にシフトに入っていたクルーHさんに
「店長、トイレ長すぎ。大変だったんだから!」
と怒られてしまいました。
「ちょっと、カメラ見て。」
とHさんは、私がトイレに入っている間の、店内の防犯カメラを再生しました。
例のカップルの女性です。
店外カメラも併せて見ると、店の左側の方角から凄い勢い走って、当店に向かってきていました。
そして、店に入ると、
「うそつきー!」
「うそつきー!」
「うそつきー!」
と何度も大声で叫びながら、裸足で店内を駆け回り、
買い物中の他のお客様を威嚇しているのです。
お客様全員に
「うそつきー!」
と言った後、店の外に飛び出し
また、来た方向に走って消えてゆきました。
一体、今日は彼女に何があったのか?
クリスマスの約束でも反故にされたのか?
うそつきって例の彼か?
裸足だけど、寒くないのかな?
疑問は尽きませんでしたが、まあ、退店されたことだし、
大丈夫かなと思い、とりあえず、お客様にお声をおかけして、
驚かせてしまったことを謝罪いたしました。
それから、20分くらいして、店内のお客様がまた、ざわざわし始めました。
気が付くと、レジにスーパードライを2缶持った、例の彼が立っていました。
頭から、血を流して左目がつぶれれて閉じています。
来ていたジャンパーにも、泥が付いており、全身擦り切れています。
デニムパンツは破れています。
「ひぃ!」
私は、思わず、叫んでしまいました。
「どどどうされましたか?」との問いに
「大丈夫です。これ、お願いします。ポイントカードありません。」
と答えられましたが、どう見ても尋常な姿ではありません。
ポイントカード、持ってないの知ってるし。
でも、今、ポイントカードの話か?
近くのお客様が
「兄ちゃん、大丈夫か?どっかから落ちたんか?車にひかれたんか?」
「救急車、呼ぼうか?」
と問いかけましたが、
「これ、お願いします。」
「これ、お願いします。」
と答えるのみでした。
会計をすませて、店を出てゆく彼を、店内の皆が入り口まで追ってゆきましたが、
足を引きずりながら、闇夜に消えてゆきました。
一応、近くの警察に通報して、近隣を巡回してもらいましたが、
怪我をしている方や、倒れている方はいなかったそうです。
次の日、また、お二人は夕夜間に現れました。
何事もなかったように、普通に来店されてレジへ来ました。
トリスハイボールを1缶ずつ持って。
彼女は昨日のことなど、何も覚えていないようでした。
彼は、頭に包帯を巻いて、顔にも傷がありました。
洋服はきれいな汚れのないいつものカジュアルな装いでした。
もう、怖くて昨日のことは何も問えず、レジを打つだけでした。
クルーさんたちの間では、
「やっぱり、不倫かな。」
「クリスマスにデートするといったのに、だめだったとか。」
「奥さんと別れるといったのに、別れないから、車で轢かれたんじゃない。」
「酒は買うんだよね。」
といろいろ噂されていましたが、結局、真偽のほどはわかりませんでした。
お客様からも、
「例のカップル、あそこで見たよ。」
と、しばらくは教えていただいておりましたが、
お二人がどうなったかはわかりません。
ともあれ、当店でお二人で一緒に、お酒を買って飲んでいる時間は幸せそうだったということです。
毎日、出会いに感謝。
もう、会えない方たちも、今日も心が穏やかでありますように。