ミュージシャンクルー クズ その2

結局、直接、店舗に雇用の直談判にきた熱意に負けて、

自称ミュージシャンKを深夜勤のシフトに入れました。

プライドが高いだけあって、仕事はそれなりにこなしていました。

問題が無いかと言えばそうではなく、

早朝勤のクルーさんからの報告で

廃棄の商品を大量に店の冷蔵庫に入れて、再度保冷し、

勝手に持ち帰っていることが判明しました。

コンビニでバイトすると、

「廃棄の商品がたくさんもらえてラッキー!」

と思っている方が多いと思いますが、

あくまで、

”廃棄は商品として売れなくなったもの”

なのです。

それを、クルーさんが食べて、具合が悪くなった場合、

”店で定めた賞味期限の切れた商品を勝手に拾って食べた”

という自己責任になります。

特に、チルド商品などは、廃棄後、店の冷蔵庫に入れることは禁止されているので

棚から、引いた時から腐敗がはじまります。

細かく言えば、防腐剤が入っているので少しくらいなら

個人的には大丈夫だと思うのですが、

当店では、常温商品以外の廃棄商品を食することを禁止していました。

ある深夜勤のシフト上がりにKに会い、

廃棄商品を冷蔵庫への持ち込みを注意しました。

JJ:「K君、廃棄商品は食べてもいいけど、

   店の冷蔵庫には入れてはだめだよ。」

K:「なんでですか?

   前にいたコンビニでは、廃棄商品は全部カゴに入れて

   ウォークイン冷蔵庫で冷やしてました。

   それで、店長がまず、欲しいものを取って

   残りをスタッフで分けてました。

   店長は、廃棄要らないんですか?」

JJ:「私は、廃棄は食べません。」

当時、10年以上前ですが、現在のように

廃棄ロスなどという言葉も、あまり浸透しておらず

廃棄商品の再活用もされませんでした。

廃棄はオーナー負担なので、

もったいないと思ったことも、何度もありましたが、

なにより、私自身は、少しでも廃棄を減らすように

発注努力を重ねていました。

K:「パスタだけでも、冷蔵庫に入れちゃだめですか?」

JJ:「どうして、パスタだけなんですか?」

K:「彼女の朝ごはんなんです。」

はぁ?彼女?

JJ:「朝ごはんという事は、一緒に暮らしてるんですか?」

K:「1ケ月前くらいにSNSで知り合って、

  僕のインスタ、フォローしてくれててDMもらって

  唄うたってるとこに来てくれて、

  つきあうようになりました。

  彼女も、親とうまくいってないらしくて

  家出してきたんで、僕のアパートにいます。

  すぐに、仕事も探してきて

  近くの古着屋でバイトして僕の家計を助けてくれてます。

  でも、僕のバイト代は全部、ライブ貯金してるんで

  彼女のバイト代で2人で生活してるんですけど、

  やっぱり、苦しくて食費とか、携帯料金とか。

  んで、彼女、パスタ好きなんで持って帰って食べさせたいんです。」

JJ:「パスタが廃棄に出ないときは、どうしてるの?」

K:「それは。。。」

JJ:「廃棄期限が来てないパスタも廃棄にしてるよね。」

K:無言

JJ:「在庫みたら、わかるんだよ。

   これ、違法行為だってわかってる?」

K:「すみません。」

JJ:「メジャーデビューする人が、

   お店の商品、盗んでいいの?」

K:「もうしません。」

JJ:「K君を応援してるオーナーを裏切ってるんだよ。」

K:「本当に、すみません。

  いっぱい商品あるから1個ぐらいいいかなって思って。」

JJ:「窃盗です。」

JJ:「彼女っていくつなの?

   家出してきたって、親はK君のところにいるの、知ってるの?

   捜索願とか出てるんじゃないの?」

K:「大丈夫です。成人してます。

   彼女が、寝てるときに免許証確認しました。

   さすがに、未成年は、僕もデビュー前の大切なからだなんで。 

   親に問題ありっぽいんで、捜索願とかださないんじゃないですかね。

   もう、1ケ月経ってるし。

   彼女は、運命の人なんです。」

でた。運命の人。

K:「店長、僕の、理想の女の人は、

   僕の代わりに働いてお金を稼いで僕にくれる人なんです。

   一生、働かずに唄っていたいんです。

   僕の、この人生での使命が唄うたいなんです。

   今まで付き合った彼女いっぱいいますけど、

   僕のために働いてお金持ってきてくれない人は

   ソッコーポイです。」

クズだな、お前。

K:「店長の理想はどんな人なんですか。

  オーナーにいっぱい働かされてますけど、

  オーナーが理想の人なんですか?」

余計なお世話だよ。

JJ:「私が、オーナーと一緒に働きたいんだよ!」

K:「へー、変わってますねー。

   ま、コンビニの店長なんて、働くの好きじゃないと

   できませんよねー。」

喧嘩売ってんのかな、このクズ!   

JJ:「とにかく、店に迷惑をかけるようだったら、シフトから外します。」

その日を境に、Kはパスタを持って帰ることはなくなりましたが、

朝ごはんと昼ごはんがパンになったようで、

大量の廃棄パンを持って帰るようになりました。

そして、コーヒーを1杯だけ買って帰っていました。

当時、当店では、クルーさんの誕生日に、クルー皆とオーナーと私で

少しずつお金を出し合って、

誕生日プレゼントを買って祝っていました。

そして、全時間帯のクルーさんに、お祝いのメッセージを色紙に書いてもらって

一緒に渡していました。 

3ケ月ほど経ったある日、あるクルーさんの誕生日だったので

Kにカンパをお願いすると、

K:「I君って、一緒にシフト入ってないし、

   別にお祝いしたくないんで拒否します。

   今月、彼女の誕生日なんで、

   香水買おうと思ってるんです。

   僕のためにお金を稼いでくれない他人に

   1円もお金は出したくないです。

   メッセージも、僕がデビューした後、

   色紙に価値が出て、転売とかされたら

   コンビニで働いてたことがばれて

   週刊誌とかに載ったらいやなんで、

   それも、拒否です。」

ふーん。そうですか。

はやくデビューできればいいね。

はやくクズの夢がかなうといいね。

そんで、はやく辞めてね。

それから約2ケ月後、

「店長、単独デビューのライブ、決定しました。」

との報告がありました。

「このポスター、店に貼っていいですか?

 チケット、クルーみんなに買ってほしいんですけど!」

渡されたのは、私が思っていた大きさの告知ポスター?ではなく、

ぺらっとしたA4のモノクロのフライヤーのようなものでした。

Kが、いつも唄っている商店街の真ん中でギターを持って、

跳ねている写真が大きく印刷されていました。

どこかでみたような構図。

よくあるギタリストの決めポーズ。

まあ、どうでもいいけど、会場が

ライブハウスじゃなくて、カフェなんですけど。

えーっ、これどこよ。

収容人数、何人よ?

これ、ソロデビューライブじゃないの?

だいたい、同僚クルーの誕プレカンパ300円けちったくせに、

2500円のライブチケット買えだと?

ワンドリンク付きでも、クズのライブと思うと高い。

知ってるぞ。

彼女の誕プレ、香水買うとか言ってたのに、

うちで580円で売ってるプラスチック容器の

ちいーさな制汗剤兼用トワレ買ってたよね。

それを、豪華にプレゼント包装してくれって

昼勤のクルーさんに頼んでたよね。

K﨑さん、困ってたよー。

O野さんも引いてたよー。

とにかく、A4のポスターのようなものを大量に持ってきたので、

担当SVに許可を取って、店頭ガラスに数枚並べて貼りました。

すると、貼ったその日に常連様から、

「あの、いっぱい貼ってる写真の人、深夜勤の人だよね。

 ライブって書いてあるけど、歌手なの?

 蝶ネクタイとかしてるけど、お笑いライブなの?」

「あのコミックバンドみたいな告知なによー。」

「誰?KENTAって?店長、知り合いなの?」

「なんか、写真のポーズ、古くない?」

「なんか、気持ち悪い写真、いっぱい貼ったねー、何あれ?」

「カフェでライブってどんなん?」

などと、怒涛のコメントをいただきました。

いやー、私にもわかりません。

しかし、とーっても優しいうちのクルーさんは全員、

Kのよくわからんライブのチケットを買ってあげました。

こぐまさんと私も2枚買いました。

こぐまさんと私はシフトで行けないので

担当SVにチケットを譲り、ライブに行ってもらうことにしました。

半年以上、コンビニで働きながら、

やっと叶った夢が無残に砕け散るまで

あと68日。

お話は続きます。

こぐま

こぐま夫婦です。夫こぐま:大学卒業後、某家電メーカー20年勤続後、早期退職。某コンビニチェーンのオーナーを経て某自動車メーカー勤務。妻JJ:大学・専門学校卒業後、不動産会社勤務→某家電販売チェーン地域店舗統括マネージャー→コンビニチェーンオーナー→オーガニック加工食品販売会社経営。毎日の出会い、小さな幸せを大切に生きています。

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