店長の憂鬱

コンビニをよく利用される方ならば、ご存じだと思いますが

現在でも、なぜか新商品の発売日は、ほとんどが火曜日です。

ですから、月曜日の夜から、火曜日の早朝にかけては

新しい商品を陳列する棚を作らなければいけないので

大変、忙しい夜となります。

その日も、PBブランドのお菓子のパッケージがリニューアルするので、

他のドライ商品の陳列をH本弟君に任せて

私は、お菓子の棚にかかりっきりでした。

2人で作業をしていると、

"パシッ、パシッ。"

と、どこからか何かをぶつけるような音がします。

何だろう?

と店内を見回すと、コピー機に、何かがぶつかって

対面の棚の前に落ちてゆきます。

ん?なに?今の?

当時、コピー機の前には、化粧雑貨や日用雑貨が置かれていました。

コピー機の前を見ると、女性用の生理用品が

乱雑に積みあがっていました。

入荷したラックから、H本弟君が、投げています。

JJ:「ちょっと、何投げてんの?やめてよ!」

H本弟:「えー、ちょうど商品の前へ落ちるように

     狙って投げてるんで、大丈夫です。」

私は、山のように積み上げられた

女性用生理用品を手に取ってみました。

四角いパッケージが、コピー機に当たった衝撃で角が丸くなって

ボールのように変形しています。

JJ:「形が変形してるじゃない!

    それに、床に投げたら、商品が汚れるでしょ!」

H本弟:「えー、大丈夫ですよー。」

なにが、大丈夫なんだ!

JJ:「これ、デリケートな商品なんだから、

   乱暴に扱わないで!

   いつも、商品、投げてるの?」

H本弟:「今日だけです。

     今日、入荷多いからー。」

本当か?あやしい。

JJ:「ねえ、これ、なんだかわかってる?」

H本弟:「ティッシュペーパーですよね。」

えーっ。

JJ:「H本君、これ何?」

私は、ボックスティッシュを売り場から持ってきて

H本君に見せました。

JJ:「これ何?」

H本弟:「箱のティッシュです。」

JJ:「じゃあこれは?」

私は、続いて、4個入りのポケットテイッシュを見せました。

H本弟:「小さなティッシュです。」

JJ:「じゃあ、これは?」

ボールになった女性用の生理用品を見せました。

H本弟:「お、しゃ、れな、ティッシュか、な?」

はあ?

本当にわからないのか?

本当に知らないのか?

私は、女性用の生理用品について、説明しました。

ふんふんと聞いていたH本弟君でしたが、

月経の知識がまったく無いのに驚いてしまいました。

H本弟:「生身の女の人っていろいろ、大変ですねー。

     気を付けまーす。」

との答えが返ってきました。

生身ってどういうことよ?

中学校、いや、この頃は小学校から性教育の特別授業があるはず。

結局、ボール状になった商品は元に戻らず、売り物にならないので

すべて、私が自費で買いました。

忙しかったので、長いレシートをくっつけて、

バックルームの机の上に朝まで置いていました。

早朝勤で来たクルーさんが、来るなり、

私の所へ来て、

「店長、生理、重いんですか?大丈夫ですか?」

と心配して声をかけてくれました。

JJ:「大丈夫です。どうして?」

クルーY野:「だって、このナプキンの量、

       半端ないですよ。

       出血ひどいんですか?

       休んだ方がいいんじゃないですか?」

今朝のH本君の行動を話すと、

クルーY野:「ああ、だから時々、

      角が丸くなってる商品があったんですね。

      お客さまがつぶしたのかと思ってました。」

やっぱり、常習者か!

9時になって、H本兄君が来たので、

JJ:「兄君、これ、何か知ってる?」

と聞いてみました。

H本兄:「はい、女性の生理用品ですよね。

     なんでここにいっぱいあるんですか?」

JJ:「ねえ、H本君の家のトイレの棚とかに

   生理用品とか、サニタリーケースって置いてないの?」

H本兄:「ないです。

     うち、家族で母親だけが女なんで、

     小さいころから、遠慮してか、

     母親は生理用品、自分の部屋に置いてました。

     使用済みのものも、袋に入れて部屋に置いてました。」

なんと!そうだったのか!

今朝の弟の行動を話すと、

H本兄:「弟は異性と付き合ったこともないし、

     ずっと、男子校だったし、

     二次元の世界のことりちゃんと結婚したんで、

     多分、そういうのってまったく知らないと思います。」

結婚は家族公認なのか?

H本兄弟の母親が、どんなに息子たちを

大切に育てようとしていたか、

努力のかけらを見たような気がしました。

それでも、"商品を投げてはいけない"と、H本弟君には

きつく叱り、床に商品をそのまま置かないように

深夜、納入・陳列時には、

床に新聞紙を敷いて作業をすることにしました。

生活の基本から教えるのか。

この頃は、ため息多めななJJの日常です。

     

こぐま

こぐま夫婦です。夫こぐま:大学卒業後、某家電メーカー20年勤続後、早期退職。某コンビニチェーンのオーナーを経て某自動車メーカー勤務。妻JJ:大学・専門学校卒業後、不動産会社勤務→某家電販売チェーン地域店舗統括マネージャー→コンビニチェーンオーナー→オーガニック加工食品販売会社経営。毎日の出会い、小さな幸せを大切に生きています。

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