早朝勤のI君が14時までの勤務なので、
私が、昼勤で入ることが多くなりました。
H本君が深夜勤で入るようになって、はや1ケ月。
彼の夢の売り場・宝島創りにも飽きたのか、
時給を減額されるのが怖いのか、
この頃では、売り場も落ち着いてきていました。
お客さまのクレームも徐々に減り、
たまに、売り場が違ってても、
「今日は、惜しかったねー!」
などと寛容なお言葉をいただけるようになっていました。
いや、ダメなんですけどね。
その日も、シフトに入る30分前に店に到着して、
バックルームに入ろうとすると、昼勤のK﨑さんが
「店長、ストコンに伝達、貼ってます。」
とカウンターから言うので、貼られたメモを見ると、
“H 本君のお母さまから電話あり。
22時H本君と一緒に来るので、
店長に会いたいそうです。”
と書いてありました。
えっ?
H本君のお母さん?
いつも、H本君を送迎しているお母さんだよね。
いつも、車から降りてこないし、
近づくと、帰っちゃうし、
会いたいって何?
いや、怖い。
なんかしたっけ、私?
えっ、H本君、辞めたいとか?
えー!
ぐるぐると頭の中をいろんなことが駆け巡りましたが、
まったく解らないので、悩んでいるとK﨑さんが
「なんか、大丈夫ですか?店長。
私、なんか、胸騒ぎがします。」
と言います。
クルーさんをこれ以上、動揺させてはいけない!
「大丈夫だよ、わかんないけど。」
と答えて、とりあえず、22時を待つことにしました。
22時10分程前に、H本君がお母さまの車でやってきました。
「こんばんわー、店長!元気ですかー?」
夜なのに、テンション高いな。
だいたい、お客さまには、夜は
「こんばんは。」
って言いなさいと言ったけど、
いまだに、クルーさんにも、
「おつかれさまです。」とかじゃなくて、
「オハヨウ」「コンバンハ」を貫いている。
少しは学べよ。
まあ、いいけど。
うちのクルーさんみんないい人だから、
H本君をフォローし続けてくれてるから、本当に感謝!
H本君がバックルームにさっさと入るやいなや、
お母さまが店に入っていらっしゃいました。
おお、はじめてお会いする!
H本母:「いつも、亮介がお世話になっております。
ご挨拶が遅れて申し訳ございません。
店長さん、今日は、お願いがあってまいりました。」
と恐縮されているので、バックルームへ案内しました。
ふと見ると、お母さまの後ろに、眼鏡をかけた背の高い男性が立っており、
お母さまと一緒にバックルームに入ってきました。
えっ、この人、誰?
H本君は、着替えを済ませて売り場に出ていたので、
お母さまとその男性と、私が対峙して椅子に座りました。
H本母:「あの、店長さん、私いつも、亮介の送迎をしてるんですけど、
店長さんが声かけてくれようとしてたの、知ってました。
でも、怖くて。
亮介が、どんな働き方をしているのかを知るのが怖くて。
ご迷惑かけてませんか?」
かけてますよ。
すごーーーーーーーーーーーーく。
でも、言えません。
JJ:「いや、H本君、とても頑張ってます。
うちも、助かってます。」
私、大人だなあ。
H本母:「本当ですか!
実は、亮介が一週間くらい前に、
朝起きてきて、夕方ですけど、
”おはよう、かあさん。”
って言ったんです!
私、驚いてしまって。
挨拶なんか、ましてや家族にですよ、
ここ十年以上、まともにしたことないのに!
私、感動して、泣いてしまいました。
すごい成長したんだなって。
こちらで働くようになってから、すごくイキイキしていて。
亮介、やりがいがある仕事だって言ってるんです。
全部、店長さんのご指導のお陰です。」
JJ:「・・・」
宝島創りがやりがいなのか。
“オハヨウ”ってオウムのように店で言ってるから、
たまたまじゃないのか?
でも、言えません。
JJ:「そうなんですか。」
H本母:「それで、店長さんにお願いがあって来ました。
この子も、ここで雇ってくれませんか?」
えっ?
雇ってくれ?
1ケ月前にも同じことを言われた記憶が。
軽いデジャヴ。
というか、この人誰?
JJ:「あの、こちらは?」
H本母:「亮介の兄の圭介です。
以前の亮介と同じように
無職で3年になります。」
えーっ。
兄がいるとは聞いていた、”ずっとお家にいらっしゃる”と。
H本君のお母さまは必死そうだが、兄は
さっきから何もしゃべらないし、きょろきょろして、
ストコンの防犯カメラ、ガン見してるし。
怖いですー!
JJ:「ずっと、お家にいらっしゃるんですか?
お体の具合が悪いとか、ですか?」
H本母:「心の病気というか、
トラウマというか、
身体は健康です。
大学の時に、人間関係でちょっと色々あって、
就職活動もうまくゆかなくて。」
お母さまはとても、困っている様子です。
H本母:「ほら、あんたも、きちんとご挨拶して。」
H本兄:「H本圭介です。
コンビニなんかで働きたくないんですけど、
母が言うのできました。」
はあ?
はあ、そうですか。
おはなしはつづきます。