JJでございます。
私は、自慢できる宝物がひとつあります。
母から貰った、人生で一番自慢できる宝物です。
高価な石とか、高価なバッグとかではありません。
「字をうまく書ける」ことです。
私が、字を習い始めたのは3歳の時でした。
当時、住んでいた家の近くに公民館があり、
そこで、地域の子供たちが、硬筆と毛筆を習っていました。
母は、私と生まれたばかりの弟を連れて、夕方、晩御飯の前にいつも公民館の近くを
散歩していました。
道を歩いていると、公民館の中の楽しそうな子供たちの声が聞こえてきます。
私は、まったく覚えてないのですが、
母が「字を習いたいか?」と聞くと
即答だったそうです。
小さな子供は私だけでした。
まわりは、みんな小学生・中学生のお兄さん、お姉さんばかりでした。
皆が楽しそうに見えたのでしょうか。
母が3歳ですけど大丈夫ですかと、先生に聞いてくれたそうですが、
字を習うのは早いほうが良いと歓迎してくれました。
最初の日は母が一緒に来てくれたのですが、まだ、3歳なので、まったく勝手がわかりません。
かたいゴムの下敷きの上に紙を敷いて、クレヨンより硬い鉛筆を持って書くことになりました。
50音はもう、大体知っていたのですが、お手本のようにはなかなか書けません。
自分の書いた字をお手本と見比べながら、
「どうしてこうなるのだろう?」
「まったくちがうかたちになってしまう」
とひとりもくもくと書き続けていました。
お手本通りに、ひととおり書けると、他の生徒は一番前に座っている先生の所へ
持って行って添削をしてもらっていました。
しかし、私は当時3歳。
自分で行くと行ったとはいえ、幼すぎる!
何をどうしてよいかもはっきりわかりませんでした。
お手本を最後まで書ききれず、奮闘していると、先生が私の隣にきて、座り、
私の鉛筆を持つ手を包み込むように握り、一緒に字を書きます。
「そりかえる、まあるくおろす、ひだりにゆくよ、
さんかくをつくってみぎにあがるよ、まあるくはねる」
お手本通りの「あ」が書けました。
「ほら、書けた」
「自分で同じように書いてごらん」
自分で書いた時よりは、うまく書けましたが、先生の掌の魔法がないと、
お手本のようには書けません。
先生も忙しいので、私ばかりにかまってもいられず、時間が空いたときに
私の席へ来てマンツーマンで魔法をかけてくれました。
先生は少し足が不自由な方でした。
当時は、椅子ではなく、畳に正座をして座っていました。
私の席まで、たびたび来るのは大変だったと思います。
わたしも、必死に魔法を覚えて少しずつうまく書けるようになりました。
右手をふわっと包み込んでくれた感覚は50年以上経っても覚えています。
「小さいくせに生意気」
と上級生の人たちにいじめられたことがあって、習いに行くのが嫌になったことがありました。
母に泣いて「こわいからいやだ」
と訴えても聞き入れてもらえず、困っていると、
当時、自宅の隣に住んでいた祖母が私の後をゆっくりとついてきてくれました。
何度も振り返りながら祖母を確認して、歩いて公民館までゆきました。
しばらくして、私たち家族は引っ越しました。
引っ越し先でも、違う地域の公民館で硬筆と毛筆を習い始めました。
しかし、3歳から始めた宗派と違い、とても、苦戦しました。
私の字は全く違う字体になりました。
新しい教室は2人の先生がいました。
どちらの先もとても優しく、ゆっくり精進してゆきました。
小学校4年生の時に、硬筆も毛筆も最高段位まで到達し、準特待生となりました。
しかし、そこから2年たっても、進級せず、特待生にはなれず、ジレンマを感じました。
先生は、ちょっと進級が早すぎたから、運営が小学生に特待生を授与できないといわれて、
とても、ショックでした。
当時はそういった風潮だったのです。
現在では、小学生でも英検など、資格試験は優秀な成績であれば合格しますよね。
結局、中学受験の勉強が忙しくなり、字を習うのをやめてしまいました。
大学に入ったときに、近くに文化教室があったので、もう一度学びなおしたいと思い、
申し込みをしたのですが、1日目の授業の時に、講師の方に、
「あなたに、教えることはありません。もっと、上級なところへ行ってください」
と言われてクビになりました。
せっかく、新しい書道セットまで買ったのに。
それからは、誰にも習っていません。
自主トレーニングの日々です。
自分では、習っていた時のようにうまく書けないと思っているのですが、
多くの方が、字を褒めてくださるので嬉しいです。
代筆の仕事もしています。
私が、手紙を書くときに一番大切にしているもの。
それは、相手をどれだけ大切に思っているかを伝えるために、
とにかく、字を間違えることなく、丁寧に書くことです。
それが基本です。
魔法をかけながら書いています。
魔法を教えてくれた先生に感謝。
ずっとつづけさせてくれた母に感謝。
遠くから見守ってくれた祖母に感謝。