ヤンさまの秋 後編

とりあえず、ヤン様が契約しているM本様の不動産屋に電話をしました。

ちょうど、3代目社長が電話にでてくれたので、

今、ヤン様が来店されて伺った、事情をお話しいたしました。

①大家さんが違う人に部屋を貸していると言っている。

②大家さんにスソを貰って食べたから、大家さんに復讐される。

③大家さんがヤン様を追い出そうとしている。

の3点を話しました。

すると、

社長:「そんな馬鹿な話あるわけないでしょ。

    ヤンさん、大丈夫なの?

    あのね、実はね、JJさん、

    ちょっと前に、うちで飼っている犬に子犬が6匹生まれたんだよ。

    おふくろと娘が可愛がって世話してたんだよね。

    それで、庭で子犬と遊んでたら、ヤンさんが毎日見に来てて

    ”犬、大好きです!”っていうもんだから、

    おふくろが、ヤンさんが日本で一人で寂しくて

    毎日子犬を見に来てると思って、可哀想だからって、

    ヤンさんに1匹あげたんだよ。

    それから、1週間くらいして、おふくろが

    ”ヤンさん、わんちゃん元気かしら?”

    って聞いたら、ヤンさんが

    ”とっても、美味しかったです。中国の友達と鍋食べました”

    って言ったもんだから、おふくろが卒倒しちゃって寝込んじゃったんだよ。

    まさか、食べるとは思ってなかったからね~。

    驚いたけど、文化の違いっていうの?

    ヤンさんの出身地あたりでは、犬はごちそうらしいんだって。

    仕方ないよね。

    おふくろと娘も諦めてたし、少しずつ元気でてきたけど。

    ほんとに驚いたよ。

    でも、ヤンさんを追い出したりしないよ。

    こっちも、勉強不足だったし、いい勉強になったよ。

    ヤンさん、気に病んでるのかね。

    部屋を別の人に貸したりしてないからヤンさんに言っといて。」

    と言って電話を切られました。

そうだったのか。

大家さんのスソを貰ったというのは、お裾分けの事か。

でも、脱毛器の毛は?

アーモンドチョコレートを食べたのは誰?

布団が濡れてるって?

JJ:「今、大家さんに電話しましたけど、

  別の人にお部屋を貸してないそうですよ。

  わんちゃんの件も大家さん、怒ってないですって。」

ヤン様を慰めたが、一向に泣き止みません。

ヤン:「でも、誰かが部屋に入ってる。怖い。」

JJ:「誰かが、部屋に入っているとしたらその人は、

   ヤン様が部屋にいる時と、いない時はどうやってわかるんでしょうね。

   ヤンさん、毎日、同じ時間に家出て帰ってってわけじゃないでしょ?

   早く帰ったり、買い物行ったりするんでしょ?」

ヤン:「怖い、盗聴されてる。」

えーっ。

JJ:「それは無いと思いますよ。

   だって、大家さんの敷地内じゃないですか?

   一番安全ですよ。」

ヤン:「JJさん、盗聴器ないか見に来て。」

えーっ。

絶対ないと思うけど。

ヤン:「今、昼だから誰かいたら怖い、店の男の人も一緒きて。」

嘘でしょ?

どう言っても聞かないので、

店長に事情を話し、ヤン様の部屋に

同じシフトに入っていたスタッフRと行くことにしました。

私が、一人暮らしをしていた時に、引っ越しの時に使っていた

盗聴器検出器(簡易的な機械・秋葉原で買った)を家に取りに戻り、

2人と合流しました。

部屋の前まで来るとヤン様は怖がって近づこうとせず、鍵を渡してきたので

私が鍵とドアを開けました。

中には、誰もいません。

当たり前ですけど。

JJ:「ヤン様、誰もいませんよ。

  中まで入りますか?」

ヤン:「入って。見て。」

中にスタッフRと入ると、人のいる気配は微塵もありません。

部屋の奥のベッドからは、何かかぐわしい匂いが混ざった強臭がしています。

サイドテーブルには、8本の除菌・消臭スプレーが置かれています。

スタッフR:「布団濡れてるって、これじゃない?

      消臭しすぎだよ、うわ、すごい匂い。」

布団の中央部分はほんのり、水分を含んで色が変わっていました。

部屋に入ってこないヤン様を中に呼び、

「消臭剤、朝かけたんですか?」

と聞くと、

「そう、日本はデオドラント大切。」

と答えられました。

そして、盗聴器検出器で部屋をくまなく探しましたが、検出されませんでした。

ヤン様はその様子を見て、少し安心されたようでした。

その日は、ヤン様も落ち着いてきたので、私達は店に戻りました。

店に戻ると、店長がバックルームに呼ぶので行ってみると

驚きの事実が判明いたしました。

ヤン様の部屋に私達が行った経緯を、スタッフ内で話していると、一人のスタッフが

「思い当たることがある。」

と防犯カメラを検索し始めたようです。

3日前の午後5:47分、応接コーナーで

店長から買ったP社の脱毛除毛器を開けて、

スカートをまくり上げて、机に脚を乗せて

脱毛しているヤン様が映っていました。

なんだよ、やっぱ、自分で使ってたじゃないか。。。

スタッフI:「自分が、休憩から戻ってきたら、応接コーナーで

      ジャージャー 音がするから行ってみたら、女の人が

      脚の毛剃ってたんですよ。

      これは、怖いと思って声かけちゃ駄目なヤツだと思って

      無視してたら、いなくなっちゃたんですよね。」

一応、その画像をプリントアウトしました。

1週間くらいして、ヤン様がご来店されました。

ヤン:「ハイ、JJさん。元気?

    タカヒロも元気?」

と、とても元気そうでした。

ヤン:「JJさん、部屋の人いなくなったよ。

    チョコレート 友達が食べた。」

JJ:「そうだったんですか!良かったです。」

ヤン:「でも、毛 わからない。」

と仰るので、先日、プリントアウトしておいたヤン様の画像をお見せいたしました。

ヤン:「怖い、私に似た人が使ってる。」

いや、あなたです。

ヤン:「絶対に私ちがう。ちがう。」

と独り言を言って帰られました。

店長:「ヤンさん、大丈夫かな。

    勉強しすぎじゃない?

    医学部だからね。」

えーっ、医学部だったんだ。

だから、子犬も料理できたのかな。

短い秋の日はこうして過ぎてゆきます。

  

     

こぐま

こぐま夫婦です。夫こぐま:大学卒業後、某家電メーカー20年勤続後、早期退職。某コンビニチェーンのオーナーを経て某自動車メーカー勤務。妻JJ:大学・専門学校卒業後、不動産会社勤務→某家電販売チェーン地域店舗統括マネージャー→コンビニチェーンオーナー→オーガニック加工食品販売会社経営。毎日の出会い、小さな幸せを大切に生きています。

こぐまをフォローする
販売 
こぐまをフォローする
タイトルとURLをコピーしました