「カタタガエしてやー。」
先日の来店時以来、お客様は毎日のように、電話をかけてこられました。
私は、配送部とお客様との間に入り、調整を進めておりました。
結果として、
①商品を乗せた配送のトラックは、開店と同時に
配送先のお客様の新築物件からみて、北北西のS町の神社に向かう。
②神社の前で、一度停車する。
③お客様に到着の確認の電話を入れる。
④お客様が確認できたら、配送先に向かう。
商品の祈祷や配送員の参拝はなし。
という事で折り合いをつけました。
配送日は、朝からとても、爽やかな五月晴れですべて上手くゆくような予感がしました。
私も、心配だったので、もう一台のトラックに乗って、配送トラックの後をついてゆきました。
神社には30分程で到着しました。
私の携帯から、お客様の携帯に電話をかけました。
JJ:「○○さまですか。只今、神社の前に到着いたしました。」
お客様:「あっ、JJさん、ありがとう。テレビ電話にできる?
現場を見たいから、テレビ電話でかけなおしてや。」
と言って電話を切られました。
なんだか、信用されてない気がしましたが、テレビ電話でかけなおしました。
JJ:「○○様ですか、今、神社の入り口です。見えますか?」
と私は、携帯で神社とトラックの2ショットを映しました。
お客様:「確認したで。ありがたい。ありがたい。」
画面の向こうでお客様は手を合わせておられました。
本当に、信心深いんだなあと感心していたのも束の間でした。
お客様:「ほんなら、トラックの荷台の中、見せてくれる?
ほんまに、うちの電気製品か確認したいんや。」
はあ?
そこまで疑う?
私は、トラックの後部ドアを開けてもらって、中を映しました。
お客様:「なんや、いっぱい積んどってわからん。
冷蔵庫の箱、映してや。」
私は、荷台に乗り込み、冷蔵庫の箱の型番を映しました。
お客様:「ちょっと待ってや。えーっと伝票、伝票っと。
うんうん、おうとる。うちの冷蔵庫や。」
当たり前だ!
他のお客様の注文品積んでわざわざ、神社まで来るか!
JJ:「○○様。ご確認いただけましたか?もう、よろしいですか?」
お客様:「ありがとう。ついでやから、JJさんちょっとお参りできん?」
そう言うと思っていたよ。
神社に来たからには、ある程度の要求があると思っていたので、私は小銭も持参していました。
私が、参拝している様子を配送員に撮影してもらい、お客様にお見せすると、
お客様:「ほんまにありがとう。これでもう大丈夫や。
もう、こっちにきてもらってええで。
でもな、バイパス通らんといて、旧道通ってきてくれん?
そっちから、来る方が吉やねん。」
もう、ここまでくれば何も驚きません。
JJ:「かしこまりました。旧道を通ってそちらに向かいますね。」
と言ってお客様の家に向かいました。
途中、旧道を通ったと証拠を残すため、信号で止まるたびに、私は前の配送トラックを
撮影しました。
お客様の家に到着し、途中の信号待ちでの写真も見せると、本当に安心しておられました。
2時間程かけて搬入・設置を終わらせました。
商品代金の配送時支払額300万円を支払ってもらおうと、
居間にいたお客様に作業終了のお声を掛けました。
JJ:「すべて終了いたしました。ご質問とかご要望がなければ
商品代金の残高をお支払いいただきたいのですが。」
居間にご夫婦でいらっしゃったお客様が少し困った顔をされたので
嫌な予感がしました。
お客様:「JJさん、すまん。ここに300万用意してあるけど、払えんのや。」
と言って、銀行の少し大きめの封筒に入った帯のついたままの300万円を私に見せました。
はあ?(本日2回目)
心が荒む。
JJ:「代金をお支払いいただけないとは、どういうことでしょうか?」
お客様:「ほんまに、すまん。暦を見間違えとったんや。トラの日やと思うとったら
違うとったんや。」
トラの日?
JJ:「トラの日とは?」
お客様:「大きいお金は、トラの日に使わないかんのや。
トラの日に使うたら、使おたことがなかったことになるんや。」
使ったことが無くなる?
頭、ちょっと××なんかな。
大丈夫かな。
冷静にならなければ。
JJ:「仰ってることが全く理解できないんですけど。」
お客様:「トラって動物おるやん。」
JJ:「はい、存じてます。」
お客様:「トラはは凄い速いスピードで走るんや。知ってる?」
JJ:「トラが走っているのは見たことありませんが、そうなんですね。」
お客様:「そうや、めちゃめちゃ速う走るんや。わしも見たことないけど。
ほんでな、トラの日っていうのが昔からあってな。
トラの日にシューッとお金を使うたら、トラみたいにシューッと戻ってくるんや。
すごいやろ。ほんで、大きいお金はトラの日に使わないかんことになってるんや。
お金持ちは皆、トラの日にお金使うんやで。」
ふーん。そうですか。
もう、ちょっとやそっとじゃ驚きません。
JJ:「じゃあ、お支払いは次のトラの日なんですね。
それはいつですか?」
お客様:「ちょうど一週間後や。」
JJ:「あの、お伺いいたしますけど、内金の30万円をお支払いされたのも
トラの日だったんですか?」
お客様:「いや、違うけど。あの日はミの日やったから、まだ払うてもよかったんや。」
ミの日。
お客様:「ミの日っていうのはな、」
JJ:「もう、結構です。お支払いいただけないのであれば、こちらも困るので
商品、全部、持って帰ります。」
お客様:「ええ、そんなん堪忍してや。4日後、新築祝いやるんや。
近所の人、いっぱい来るんやで。
餅投げもするんやで。
ご馳走、いっぱい作らなあかんのに、お酒も冷やさんといかんのに
冷蔵庫ないと困るやん。」
JJ:「うちも、代金貰わないと困るんですよ。
ご馳走、いっぱい作る材料のお金とか、モチ代、酒代とか
お金、いっぱいかかるでしょ。
そのお金はトラの日までに払うんですよね。
シューッと戻ってこなくてもいいんですか?」
お客様:「それは。。。」
「お父さん、もうええ加減にしいや。ここまでやってくれてお金払わんかったら、
詐欺になるで。」
と、同居の息子夫婦が幼い孫を連れて、居間に入ってきた。
息子:「往生際悪いで。お金払わんとか感じ悪いわ。
カタタガエしてくれる電気屋さんなんか他におらんで。
はよ、払うて。JJさん困らせんときや。」
息子嫁:「神社にお参りまでいってもろうたんやから、
トラの日やのうても、お金還ってくるんちゃう?」
とお客様夫妻を諭してくれました。
おお!
W神降臨。
しぶしぶ、代金をお支払いくださいました。
領収書を渡すと、
お客様:「なあ、JJさん、領収書の日付、来週のトラの日にできん?」
無言の私を見て、
お客様:「すまん、もうええわ。」
という事で大家族のお見送りの中、新築の大豪邸を後にしました。
手強いお客様でした。
あとは、お売りした商品が、ご家族の生活を快適にしてくれることを、願うだけです。
自分では全く興味なくても、だんだん、増えてゆく暦の知識。
知識は力だ。
こうして、お客様に日々、お力を頂戴いたしております。
感謝。