縁起を担ぐ 上級 前編

JJでございます。

日本は八百万の神がいらっしゃるとよく聞きます。

神社が約8万、寺社が約7万7000もあるそうです。

宗教に関しては、とても寛大なお国柄なのではと思います。

特に、お客様が色んな暦や占いを生活の一部として取り入れているのを拝見すると、

より、日本の懐の深さを感じます。

これからお話しするのは、私がこれまで出逢ってきた”縁起を担ぐ”方の中でも

最強のご家族でした。

当時、配属されていた店舗から車で30分程に、田園地帯が広がっておりました。

農業に従事される方が多く、そのお客様も一帯の地主様でした。

広大な敷地に、3代に渡ってお住まいで、現在も7人のご家族で居住されておりました。

江戸時代に建てられた母屋が、相当古くなり、敷地内に立て替えることになり、

新しく家電一式をご購入いただきました。

エアコンや照明器具、温水便座等の工事の下見でお伺いしたのですが、11LDKKという

立派なお屋敷でした。

1ケ月後に、新築のお祝の宴を控え、あとは、冷蔵庫や洗濯機等を搬入・設置するのみでした。

現在の家長であるご主人と奥さまがご来店され、配送日を決めておりました。

JJ:「配送のご希望の日は、ございますか?」

ご主人:「だいたい決まってんのやけど、問題があるんよ。」

JJ:「問題とは、何でしょう?こちらで解決できることでしょうか?」

ご主人:「5月12日が大安で、大みょうなんよ。すごいええ日やねん。」

JJ:「いいじゃないですか。時間かかりますから、大安だと時間も気にしなくていいですしね。」

ご主人:「でも、方角が駄目なんよ。」

JJ:「えっ、方角ですか?」

ご主人:「エアコンとか工事してもろたのって、先月やん。先月は良かったんよ。

     5月はうちから見て、この店の方角が悪いんよ。」

といって、厚めの開運暦を私に差し出しました。

ご主人:「ほら、見て。先月まではこの店の方角は吉やったんやけど、今月は凶やねん。」

五月の方位という、八角形の細かく区切られた方角の吉凶図が書かれていました。

ご主人:「ほんで、ちょっと手間かかるけど”カタタガエ”しようと思うてるんよ。」

JJ:「カタタガエ?」

JJ:「何ですか?それは一体どういったものなのですか?」

ご主人は五月の方位をペンで指しながら私に言いました。

ご主人:「ほら、ここ見て。五月はうちとここの店の方角の相性が悪いわけ。

だから、この店から直接 商品運んで来たら、悪いものも一緒についてくるわけよ。」

JJ:「悪い物って何ですか?」

ご主人:「ここらへんにうろうろしとる、家に入れたらいかんもんや。」

JJ:「はぁ。そういったものがこの店にいると。」

ご主人:「店にもおるけど、道往きついてくるのよ。」

ご主人:「だからね、この店を出て、一度、こっちの吉の方角に行ってから、

     うちにきてほしいねん。そしたら大丈夫やねん。」

ご主人:「本当は、前の日から行かんといかんのやけど、それはちょっとできんわな。

     ほんでこの近くに神社があるからそこへ行ってから、うちに来てほしいんやけど。」

JJ:「よく、おっしゃっている意味がわかりませんが、

   要するに、家電を積んだトラックは店を出て、北北西のS町の神社に行ってから、

   そこからお客様のご自宅に向かえということですか?」

ご主人:「そのとおりや。あんた、頭の回転ええな。

    平安時代から、貴族はそうしてたんやで。政治生命に関わる大事な儀式なんやで。」

JJ:「ご先祖は貴族だったのですか?」

ご主人:「いや、ずっと農家やけど。先祖代々やってるんや。」

JJ:「神社に行ったとして、どのくらいいれば良いのですか?

  神社の入口にいるだけでよいのですか?」

ご主人:「問題はそこやね。わしもやったことないからようわからんのや。」

JJ:「えー。やったことないって。そんなの効果あるんですか?」

ご主人:「家電製品の方違えがはじめてやねん。自分らが旅行行く時に悪い方角やったら、

     前の日から違う方向に行って1泊してから目的地へいくねん。

     そしたら、事故も病気もなし。今までずーっとなし。

     本当は、神社で商品降ろして、

     祈祷もしてもらいたいんやけどね、無理よね。」

ご主人は先程から、ずーっと上目遣いに私の様子をうかがっています。

圧がすごいんですけど。

JJ:「祈祷はまず無理です。とりあえず、配送部と協議してみます。

   ちょっと、今、お返事できないです。」

ご主人:「あのさーわしら、この店で一番大きな冷蔵庫2台も買うたんやで。

     そんな人ここのお客さんにおる?」

JJ:「はい、いらっしゃいます。」

ご主人:「えっ、おるの?じゃあ、エアコン12台も買った人おる?」

JJ:「はい、いらっしゃいます。」

ご主人:「。。。うち、おばあちゃんとかいっぱいおるんよ。皆、健康でおって欲しいやん。

     冷蔵庫は家族の血となり肉となる食材を入れる大切なもんやで。

     冷蔵庫でうちの家族の運命も決まる。

     悪い気の冷蔵庫が来て家族が病気になったら、責任とれるん?」

JJ:「方角が悪くて、冷蔵庫が原因で、ご家族に禍が起きたと証明できたら、責任とります。」

ご主人:「このとうりや、お願いするわ。面倒なんはわかるけど、

     わしら、家族の命がかってんねん。よろしゅうしたってや。」

JJ:「善処いたします、またご連絡いたします。」

その日は、お帰りいただきました。

閉店後のミーティングでその話をしたが、配送部は

「ちょっと、大丈夫ですか、その人。怖いんですけど。」

そうですよね。

私も怖いです。

後編に続きます。

     

こぐま

こぐま夫婦です。夫こぐま:大学卒業後、某家電メーカー20年勤続後、早期退職。某コンビニチェーンのオーナーを経て某自動車メーカー勤務。妻JJ:大学・専門学校卒業後、不動産会社勤務→某家電販売チェーン地域店舗統括マネージャー→コンビニチェーンオーナー→オーガニック加工食品販売会社経営。毎日の出会い、小さな幸せを大切に生きています。

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